2026.11.03
AI活用 見積AI

外注見積の相場と発注先をAIで見える化|持株会社のクリエイティブ部門の見積AI事例(PoC前の試算)

外注見積の相場と発注先をAIで見える化|持株会社のクリエイティブ部門の見積AI事例(PoC前の試算)

デザインを外注する部門で「この見積は高いのか安いのか」「どこに頼むか」が担当者の経験頼みになっているなら、見積AIで過去の見積を相場として使えるようにできます。AIは似た過去案件、単価の目安と幅、発注先の候補3社を、根拠つきで出します。金額と発注先を決めるのは人です。ねらいは「なぜこの金額か」を過去の数字で説明できるようにすることにあります。

この記事では、持株会社のクリエイティブ部門と当社が進めている見積AIの設計を、課題から順に紹介します。まだ本開発の前で、PoC(小さく試す検証)もこれからです。記事中の数字はすべて、設計と業務の実態から逆算したPoC前の試算で、実測値ではありません。


この部門の外注見積で、何が起きていたのか?

デザインの外注先を選ぶとき、頼りにしていたのは担当者個人の経験と、部署の中で共有されているわずかな情報でした。

その結果、2つのことが起きていました。1つは、頼む先がいつも同じ数社に偏り、選び方が固定化していたこと。もう1つは、見積の金額が妥当かどうかを判断する材料が見えないことです。どの協力会社が何を得意とし、どれくらいの価格で、どんな品質で応えてくれるのか。そうした情報が整理されないまま、担当者ごとの判断に任されていました。

さらに、過去の見積書、デザインデータ、実績資料を横断して探す手段がありません。グループの中で情報が会社や部署ごとに分かれていて、全体を見渡せる人もいませんでした。

課題は「価格の判断」と「協力会社の特徴をつかむこと」の2つに分けて整理しました。


見積の判断材料は、なぜ見えなくなるのか?

過去の見積書はあるのに、使える形になっていないからです。

協力会社から届く見積書は、PDFとExcelが中心で、書式は会社ごとにばらばらです。品目の書き方も、単価の出し方もそろっていません。これでは「前に似た案件をいくらで頼んだか」を探すだけで手間がかかり、比べる前に時間切れになります。

そのため、相場観は担当者の記憶の中にしか残りません。担当者が替われば、その相場観も一緒に消えてしまう。見積AIに取り組む前に、まずここを押さえておく必要があります。過去の見積は、集めて形をそろえないとAIにも使えません。


見積AIは何を出すのか?

入力は、案件の内容、依頼の内容、制作物、点数、予算、希望する協力会社です。そこから出すものは3つです。

  1. 似た過去案件:集めた見積書の中から似た案件を探し、実績として示す
  2. 概算と単価の幅:総額だけでなく単価も出す。単価は過去実績の中央値を目安にし、ばらつきの中ほど(四分位範囲)を幅として添える
  3. 協力会社の候補3社:いつもの数社に偏らないよう、案件に合う候補を並べる
見積AIが出すのは、似た過去案件・単価の目安と幅・協力会社の候補3社の3つ

設計でこだわったのは、どの数字にも根拠を付けること。「似た案件は○年の○○」「この協力会社の同種の実績は○件」「この制作物の単価の中央値は○円、幅は○円〜○円」という細かさで、数字の出どころが必ず見えるようにします。

単価を1つの数字だけで出すと、現場は「この数字の責任は誰が取るのか」で手が止まります。幅と根拠が添えてあれば、担当者は自分で判断できるはずです。


全部の案件を人が確かめるのか?

確かめ方を、金額の大きさとリスクで3段階に分けます。全部をAIに任せるのでも、全部を人が見るのでもないやり方です。

リスクの段階 人の関わり方
低い 営業や制作の担当者が参考情報として使う(参考情報だと明記する)
中くらい クリエイティブ部門が簡単に確かめる
高い クリエイティブ部門が必ず確かめる
確かめ方を3段階に分ける:低いリスクは参考利用、中くらいは簡単な確認、高いリスクは必ず確認

金額と発注先を最後に決めるのは人です。AIの出した数字が、確認なしに発注に使われることはありません。

使った記録も残します。どの案件でどの候補が選ばれ、最後にいくらで発注したか。その記録を実績データに足していけば、使うほど相場の精度が上がる仕組みになります。

当社が見積AIをどう作るか、進め方と体制は見積AIの開発・伴走のページにまとめています。


どれくらい時間が減る見込みか?

次の前提を置いて試算しました。PoC前の試算で、実測値ではありません。

項目(PoC前の試算の前提・実測値ではない) 置いた前提
デザイン外注の案件数 月100件(年1,200件)
1件あたりの相場調べ・発注先選び・見積比較の時間 平均120分
1人あたりの年間労働時間 1,800時間

この前提で計算すると、次のような効果が見込めます。

指標(PoC前の試算・実測値ではない) いま 見積AIを使った場合の試算
相場調べ・発注先選びの時間 1件120分 約30分
年間で減る時間 ― 約1,800時間(およそ1人分)
上位3社に発注が集まる割合 約70% 約50%
予算を超えそうな案件に気づく時点 発注した後 見積の時点(全案件の約1割に印が付く想定)

1件あたり約90分減る想定で、年1,200件なら約1,800時間です。1人あたり年1,800時間で割ると、およそ1人分になります。リスクの低い案件は参考情報を見てすぐ決められ、時間をかけて調べるのはリスクの高い案件だけになる、という見込みです。

件数や1件の時間が違えば、結果も同じにはなりません。この表は「この設計なら、この前提でここまで見込める」という目安で、実際の効果はPoCで測ってから判断します。


外注費を下げるための仕組みなのか?

違います。安い外注先を探すための仕組みではありません。

先方が最初から大事にしていたのは、案件の目的や制作物の重要さに合わせて、予算をどう配るかを考えられる状態です。値切るための道具にすると、協力会社との関係を傷めます。

発注する側の管理部門が本当に困っているのは、金額の説明です。「なぜこの協力会社に、この金額で頼んだのか」を上長や経理に聞かれたとき、過去の実績の数字で答えられるかどうか。見積AIが生む価値はそこにあります。

新しく着任した担当者にとっても同じです。試算の前提では、単価の感覚が身につくまで半年ほどかかると見ています。過去の幅が数字で見えれば、使い始めた日から相場を確かめながら判断できる見込みです。

外注費を下げる道具ではなく、なぜこの金額かを過去の数字で説明できるようにする仕組み

PoCでは、何を確かめるのか?

進め方は2段階に分けています。

最初の簡易PoCでは、主な協力会社と主な制作領域に絞り、AIが出した概算を実際の見積と比べます。次の精査PoCでは、協力会社と領域を広げ、単価まで含めた比較に進みます。このとき、似た案件や候補の協力会社が妥当かを確かめ、実際の担当者に使ってもらって使い勝手の感想を集めます。

PoCで扱うのは、データの取り込み、似た案件を探す精度、概算金額の算出、候補の協力会社の出し方、簡単な画面までです。ログイン、権限、マスターの管理、基幹システムとの連携、監査の記録などは、本開発に回しました。PoCでは精度の確認に絞るためです。

当社からは、PoCの合格条件を始める前に書面で決めることを提案しました。条件は、精度70%以上、現場の評価70点以上、情報システム部門の確認が通ること、の3つです。精度だけで合否を決めず、現場が使うかどうかも条件に入れています。


同じ悩みの会社は、最初に何をすればよいか?

AIを作る前に、過去の見積を集めることから始めます。

  1. 見積書を1か所に集める:PDFとExcelに分かれた過去の見積書を、案件の情報と結びつけてまとめる
  2. 品目の呼び方をそろえる:同じ制作物が会社ごとに違う名前になっていないかを確かめ、呼び方を決める
  3. 協力会社の情報を表にする:得意な領域、実績、制作物の種類を、担当者に聞き取って書き出す
  4. いまの時間と偏りを測る:1件の相場調べにかかる時間と、上位の協力会社に発注が集まる割合を記録し、試算の前提にする

手間がかかるのは1つ目と2つ目です。書式がばらばらの見積書をそろえる作業は地味ですが、ここを飛ばすとAIは似た案件を正しく見つけられません。

特注品の見積で部品と工数の下書きを作る、別の事例も紹介しています。特注品の見積をAIで下書きする設計|空調機器メーカーの事例


よくある質問

Q. 見積書の書式が協力会社ごとにばらばらでも、見積AIは作れますか?

A. 作れます。ただし最初の作業は、PDFとExcelの見積書を集めて品目の呼び方をそろえることになります。この事例でも、見積書はPDFとExcelが中心で、書式は会社ごとに違っていました。

Q. 見積AIが発注先や金額を決めるのですか?

A. 決めません。AIは似た過去案件、単価の目安と幅、候補の協力会社3社を根拠つきで出すだけです。最後に決めるのは担当者とクリエイティブ部門です。

Q. 単価は1つの数字で出さないのですか?

A. 過去実績の中央値を目安にし、ばらつきの中ほどを幅として添えます。1つの数字だけだと現場が判断の根拠を持てず、使われなくなるからです。

Q. 記事の削減時間は実績ですか?

A. 実績ではありません。月100件・1件平均120分などの前提を置いたPoC前の試算です。件数や時間が違えば結果も変わるので、自社の数字で計算し直してください。


見積AIの開発を、現場に入って一緒に進めます

株式会社AIworkerは、見積AIの設計から開発、現場での定着までを一緒に進めています。過去見積の集め方、PoCの合格条件の決め方、人が確かめる段階の分け方まで、この記事で紹介した進め方を御社の見積業務に合わせて組み立てます。

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