特注品の見積をAIで下書きする設計|空調機器メーカーの見積AI事例と試算
特注品が多いメーカーで本見積に時間がかかるのは、見積の決め方が過去の見積書とベテランの頭の中にあるからです。見積AIは、過去の類似見積を探し、部品と工数の下書きを作り、選定漏れと単価の外れを指摘するところまでを受け持ちます。金額を決めるのは人で、いちばん大きな効果は、新人がベテランと同じ部品構成にたどり着けるようになることです。
この記事では、空調機器メーカー(特注品中心)と当社が進めている見積AIの設計を、業務の実態から順に紹介します。見積AIはまだPoC(小さく試す検証)の前の段階です。記事中の数字はすべて、設計と業務の実態から逆算したPoC前の試算で、実測値ではありません。
このメーカーの見積は、どう作られているのか?
扱う製品に特注品が多く、標準品の見積と、現場ごとに部品を積み上げる見積とで、作り方がそもそも違います。
見積の仕組みが何もないわけではありません。基幹システムには半自動の見積機能があり、概算見積までは出せます。困っているのはその先です。
客先に出す本見積は、過去の似た見積を探し、違うところを直して作ります。いわば過去の見積の「差分更新」です。この作り方では、どの部品をいくつ、どの工数で積むかという判断は、システムの中にはありません。過去の見積書と、ベテランの頭の中にあります。
見積が遅くなる本当の原因は何か?
原因は、データの形にあります。AIの性能の問題ではありません。
本見積が過去の見積に頼っている以上、いちばん大事なデータは過去見積です。ところが、その過去見積が使える形に整っていません。
さらに、機器とそれに必要な部品の紐づけが、マニュアルとして書かれていません。機種が多く、Excelの部品マスターは膨大です。ベテランは経験で正しい部品を選べますが、新人は部品と工数をうまく選べず、1件の見積に時間がかかります。
多くの記事は「見積作成を自動化しましょう」で終わります。ですが、この現場では概算はすでに出せていて、手が止まっているのは本見積です。見積AIを考えるなら、まず本見積のどこで時間がかかっているかを見る必要があります。
見積AIは何をするのか?
設計した機能は4つです。
- 過去見積の検索:機種、現場の条件、作業内容を入れると、似た過去見積を上から数件、選んだ理由とあわせて出す
- 部品と工数の下書き:似た見積をもとに、必要な部品と工数を差分更新した形で書き起こす
- 選定漏れの指摘:その機器に必要なはずの部品が抜けていないかを、過去の実績と照らして知らせる
- 単価のチェック:過去実績の幅から外れた単価に印を付ける

4つとも、担当者がゼロから考える時間を減らすためのものです。AIが見積書を完成させて客先に出すわけではありません。
AIに任せないことは何か?
金額を決めるのは人です。
単価のチェックは、過去の幅から外れた数字に気づかせるだけです。その単価で出すかどうかは、担当者と上長が決めます。部品と工数の下書きも、最後は担当者が現場の条件と照らして確かめます。
人が確認する前提なら、AIの誤りがそのまま客先に出ることはありません。もう1つの利点として、担当者が下書きのどこを直したかが記録に残ります。この直した記録は、次の見積の精度を上げる材料です。
自社の見積業務で、どの作業からAIに任せられるかを整理したい方は、記事の最後にある「AI業務診断」もご覧ください。
どれくらい時間が減る見込みか?
次の前提を置いて試算しました。PoC前の試算で、実測値ではありません。
| 項目(PoC前の試算の前提・実測値ではない) | 置いた前提 |
|---|---|
| 見積を作る件数 | 月250件(年3,000件) |
| 1件あたりの作成時間 | 平均90分(ベテラン約60分、新人約180分) |
| 1人あたりの年間労働時間 | 1,800時間 |
この前提で計算すると、次のような効果が見込めます。
| 指標(PoC前の試算・実測値ではない) | いま | 見積AIを使った場合の試算 |
|---|---|---|
| 見積1件あたりの作成時間 | 平均90分 | 約30分(確認と調整が中心になる想定) |
| 年間で減る時間 | ― | 約3,000時間(およそ1.7人分) |
| 新人の見積作成時間 | 約180分 | 約40分 |
1件あたり約60分減る想定で、年3,000件なら約3,000時間です。1人あたり年1,800時間で割ると、およそ1.7人分になります。
件数や1件の時間が違えば、結果も同じにはなりません。この表は「この設計なら、この前提でここまで見込める」という目安で、実際の効果はPoCで測ってから判断します。

本当の効果は、時間の短縮なのか?
数字で目立つのは時間の短縮です。ただ、この案件でいちばん大きいのは技術の引き継ぎだと考えています。
部品マスターが膨大で、新人が正しい部品と工数を選べない。これは時間の問題というより、「ベテランが辞めたら見積が作れなくなる」という問題です。
見積AIが過去の似た見積と部品の組み合わせを出せば、新人もベテランと同じ部品構成にたどり着けます。試算で新人の時間が約180分から約40分に縮むのは、この効果を時間で表したものです。ベテランとの差が縮むことが、見積AIを入れる理由の中心になります。

同じ悩みの会社は、最初に何をすればよいか?
AIを作る前に、データとやり方の棚卸しから始めます。
- 本見積の作り方を書き出す:概算と本見積を分け、本見積のどの作業に時間がかかっているかを見る
- 過去見積を集める:Excel、PDF、システムの中に散らばった過去見積を、1か所にまとめる
- 機器と部品の紐づけを整理する:ベテランに「この機器ならこの部品が要る」を聞き取り、表にする
- 件数と時間を測る:月の件数と、ベテラン・新人それぞれの1件の時間を記録し、試算の前提にする
この中で手間がかかるのは3つ目です。地味で、終わりが見えにくい作業ですが、ここを飛ばすとAIが正しい部品を選べません。社内の情報システム担当だけで抱えると、AIを作る前に止まりがちです。現場とベテランに入ってもらい、一緒に進めるのが近道です。
よくある質問
Q. 基幹システムに見積機能があっても、見積AIは要りますか?
A. 概算までしか出せない場合は、本見積の部分で効果が見込めます。この事例でも、概算は半自動で出せていて、時間がかかっていたのは過去見積の差分更新で作る本見積でした。
Q. 見積AIが金額まで決めるのですか?
A. 決めません。AIは過去実績の幅から外れた単価に印を付けるだけで、出す金額は担当者と上長が決めます。
Q. 過去見積が整理されていなくても始められますか?
A. 始められますが、最初の作業は過去見積の収集と、機器と部品の紐づけの整理になります。この事例でも、精度を左右するのはAIの性能より、この紐づけの整理だと見ています。
Q. 記事の削減時間は実績ですか?
A. 実績ではありません。月250件・1件平均90分などの前提を置いたPoC前の試算です。件数や時間が違えば結果も変わるので、自社の数字で計算し直してください。
当社の見積AIの機能・進め方・よくある質問は、見積AIの開発・導入支援のページにまとめています。
見積業務のどこからAIにするか、30分で整理します
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